ドラくぼん  2


 突然やってきて、まんまと我が家に入り込んだエイリアンは、名前をドラくぼんといった。
 そして、役立たずだった。
「邪魔だ、ドラくぼっ!あっちいってろよ!!」
「え〜神谷さっきもそういったから、こっちにきたのに」
 しくしくと泣きまねをしつつにじり寄ってくるドラくぼんを、最近鍛えられている足で蹴りどかした。
「それに俺の名前はドラくぼんだよ〜省略しないでよう」
「長いんだよ。ほら、邪魔だから暇なら実花の相手でもしてろ」
 一つ年下の妹の名前を出すと、ドラくぼんはいっそう泣き出し(といっても嘘泣きだ)、涙ながらに語った。
「だって、さっき部屋に入ったら、女の子の部屋に入るなんて最低っていわれちゃったんだもん」
「あいつ最近ませてるからなぁ・・・あ、そこに座るな。これから掃除機かけるんだから」
「手伝うよ」
「迷惑だ」
 きっぱりと言い切ると、いっそう盛大に泣き声(嘘泣き)をあげた。
 しかし神谷にも言い分はある。
 神谷家は共働きだから、長男の神谷はちっちゃな頃から家の雑用をやらされてきた。もちろん仕方なくやっていたのだ。
 そこにドラくぼんがいついたのだ。自分の仕事が減ると神谷が期待したのは無理もない。
 しかし。
 実際仕事を押し付けてみると、恐ろしいほどドラくぼんは何も出来なかった。
 皿を拭けといえば割る。風呂を入れろといえば水風呂。洗濯物をたためといえば破く。
 わざとやってるんじゃないかと初めは疑ったが、そのうち気づいた。
 こいつは不器用。縦にしても横にしても逆さにしても使いようのないくらい不器用。
 できることといえば仕事を増やすことだけ。
 気づいてからは頼むのをやめた。自称ロボットのくせになんて使えない奴だと思ったが、ないものねだりをしてもしょうがない。
 それがまたドラくぼんにはショックだったらしいが、そんなのは知ったことか。

 ちなみに今日は日曜日。
 両親は親戚の法事とかで出かけている。
「ねえ、神谷」
「なんだよ」
「おなかすかない?もう三時だよ。なんかつくろっか?」
 にっこり笑顔で言われて、神谷は思わずどついた。
「誰が作るんだ!」
「もちろん俺が作るよ。神谷は休んでてね」
 懲りないドラくぼんの言葉に神谷の毛細血管が切れかかったとき、
「やだ。嘉晴のなんてまずくて食べられないもん。お兄ちゃん何か作って」
 幼いながらに、将来はさぞ可愛くなるだろうと予想させる女の子がいつのまにか来ていった。
「おなかすいたのか?」
「みかちゃん!俺だって料理できるよ!!」
「やーだ。嘉晴のチャーハン、紙が入ってたもん。お兄ちゃん、実花、プリンが食べたい」
 ドラくぼんには厳しく、周りともうまくいってない神谷だったが、妹には弱かった。
 プリン、といわれて冷蔵庫をあさるがあいにく既製品も材料も見つからない。
「うーん・・・・実花、フルーチェでもいいか?」
「やだ、プリン」
「ないんだよ。フルーチェで我慢しろ」
 そういうと、実花はぷうと両頬を膨らませたが、それでも黙ってうなずいた。
 なぜかニコニコしているドラくぼんにも、ついでだから、声をかけた。
「お前も食べるか?」
「食べる、食べる!」
 自称ロボットのくせになんで食べるんだと思ったが、嬉しそうに跳ねているのが面白かったので聞かないでやった。


 フルーチェは冷やさないとおいしくない。
 待っている間に、神谷はふと気になったことを聞いてみた。
「なあ、やっぱりお前の一番好きなものってドラ焼きなのか?」
「なんで?」
 聞いたのは実花だ。
「あ・・・・別に、なんとなくだよ!」
「何で怒るのよ!」
「怒ってねえよ!!」
 ただ、まずっただけだ。
 ドラくぼんが、本人いわく「正体を明かした」のは神谷だけだった。
 実花や両親には、「いとこの久保嘉晴」ということになっているのだ。
「俺がこの前、ドラ焼きが食べたーい!ってさんざん神谷に言ったんだよ、みかちゃん。一番好きってわけじゃないんだけどね」
「ふーん」
 納得したらしい妹に、ほっと胸をなでおろした。
 ドラくぼんは、手先はあんなに不器用なのに、サッカーと口先だけは何でこんなにうまいのか神谷には不思議だ。
「そろそろいいかな」
 神谷が冷蔵庫を覗くと、後ろがとたんに賑やかになった。
「嘉晴は手伝ってないんだから、ちっちゃいお皿でしょ!」
「俺ラップかけたよ!そういうみかちゃんこそ何もしてないじゃんか!」
「あたし牛乳出したもん!」
 今までは、神谷が譲っていたおかげで好き放題だったのにライバルが出来てしまった実花と、年上なのに(そして自称未来からきたロボットなのに)実花と同レベルで争うドラくぼんに神谷の頭が痛くなったとき、玄関のチャイムが鳴った。
「あたし出る!」
 いつもは嫌がるくせに一目散に駆け出した実花に、「点数を稼ぐつもりだ」とドラくぼんが悔しがっている。
 すごく、おかしかった。
 些細なことが、やけに楽しい。
「神谷、楽しい?」
「・・・・・ちょっとだけ」
「なら、俺も嬉しい」
 こういうことが照れずに言えるあたり、やっぱりエイリアンかもしれない。
 少しくすぐったいような空気に神谷がなじんでいたとき、
「・・・・・いません!かえってください!!」
「・・・・いる・・・・だか・・・はず・・・・!」
   玄関からもめている声が聞こえてきて、神谷とドラくぼんは顔を見合わせた。
「セールスかな」
「俺見てくるよ、神谷はここにいて」
「俺もいく」
 大事な妹に何かあったら大変だ。二秒もかからず玄関についた。
 ついた瞬間後悔した。
「お兄ちゃん・・・・」
 何で来ちゃったの、といわんばかりの妹の頭を撫でて守るように前に立った。
「神谷・・・・」
「何か用ですか、斉木さん。内海さん。加納さん」
 神谷の中で会いたくない人ベスト3が、そこにいた。

 冷気を発しているような神谷の態度に、めげながらも斉木は言った。
「一緒に、遊ばないか?話したいこともいろいろあるんだ」
「忙しいんで、すみません」
「暇そうじゃん」
 突っ込んだのは内海だ。
 神谷は内海が二番目に苦手だった。容赦なく核心を突くところが怖かった。
「これからやることがあるんです」
「少しでいいんだ。一時間か、駄目なら三十分でも」
 それは神谷にとってちっとも少しの時間ではなかった。
 しかし相手は一応年上だ。譲歩されて、まだ突っぱねるわけにもいかない。
 神谷が迷いつつ口を開こうとしたとき、ドラくぼんがいった。
「悪いんですけど、神谷には俺たちのほうが先約なんです。ね、みかちゃん」
 唐突に話をふられて、それでもぶんぶんと実花はうなずいた。
「だから、今日は、本当に悪いんですけど・・・・」
 そのあとはいわずに、笑顔でおしているドラくぼんに神谷は内心拍手を送った。
 だが敵も強かった。
「じゃあ俺たちもまぜてほしいな」
  「内海」
「いいだろ、な、神谷」
 笑顔の強さではドラくぼんと張るかもしれない。
 引け腰になっている斉木の首根っこを捕まえるようにして微笑まれて、神谷は仕方なくうなずいた。





 3に続きます。
 斉木、内海、加納は小学六年生。想像するとちょっと愉快。
 内海はきっと美少年だろうな〜。 斉木は可もなく不可もなく?加納は威圧感ありそう。
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